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2026年10月1日、日鉄興和不動産が東京・銀座で「(仮称) 木挽ビルホテル計画」の新築工事に着手しました。 地上12階・地下1階、延床面積約9,742㎡、130室のホテルを整備し、2029年10月の開業を予定しています。
最大の特徴は、鉄骨・RC・木造を組み合わせ、木柱・木梁、CLT耐震壁、耐震木ブレースなどを適材適所に用いる高層ハイブリッド木造建築であることです。
さらに国土交通省「令和8年度優良木造建築物等整備推進事業」の先導枠にも採択されました。 建設業界にとって本計画は、単なる「木を多く使ったホテル」ではありません。
都市部の中大規模建築に木造・木質化をどう組み込み、構造、防耐火、設備、施工、地域材調達、環境性能まで成立させるのか。 その実践例として注目したいプロジェクトです。
日鉄興和不動産が銀座で始めた環境配慮型ホテル計画とは
2026年10月に動き出した「(仮称) 木挽ビルホテル計画」は、日鉄興和不動産が長年保有してきた銀座七丁目の社有地を活用し、既存のオフィスビルを建て替えてホテルを開発する事業です。 銀座の一等地で高層ハイブリッド木造を実現することに加え、ホテル、環境性能、地域材利用という複数のテーマを一つの建築に集約している点に大きな特徴があります。
ニュースのポイントを整理すると、建物規模以上に「つくり方」が重要です。
三菱地所設計によると、同計画は2026年10月1日に着工しました。 所在地は東京都中央区銀座七丁目205番1、205番12で、東京メトロ日比谷線・都営浅草線「東銀座」駅から徒歩4分。 地上12階・地下1階、最高高さ約42m、延床面積約9,742㎡、建築面積約1,047㎡で、用途はホテル・飲食店・自動車車庫です。 客室数は130室。 建築主は日鉄興和不動産、設計監理は三菱地所設計、内装設計は乃村工藝社、施工は熊谷組・住友林業特定建設工事共同企業体が担います。
| 項目 | 計画内容 |
|---|---|
| 計画名称 | (仮称) 木挽ビルホテル計画 |
| 所在地 | 東京都中央区銀座七丁目 |
| 用途 | ホテル・飲食店・自動車車庫 |
| 構造 | S造・RC造・木造 |
| 規模 | 地上12階・地下1階 |
| 最高高さ | 約42m |
| 延床面積 | 約9,742㎡ |
| 客室数 | 130室 |
| 建築主 | 日鉄興和不動産 |
| 設計監理 | 三菱地所設計 |
| 内装設計 | 乃村工藝社 |
| 施工 | 熊谷組・住友林業特定建設工事共同企業体 |
| 着工 | 2026年10月 |
| 開業 | 2029年10月予定 |
| 予定する環境認証 | LEED Gold、 SITES Gold |
| 国の支援制度 | 令和8年度優良木造建築物等整備推進事業「先導枠」 |
上表は事業者・設計者の2026年10月1日発表を基に整理したものです。
GLC jobとして特に注目したいのは、「木造ホテル」という言葉だけではこのプロジェクトの本質を捉え切れない点です。
一般的に都心のホテルでは、客室数、階高、設備スペース、耐震性能、防耐火性能、遮音性、メンテナンス性などを同時に成立させる必要があります。 本計画では建物すべてを木造に置き換えるのではなく、木造に向く部分、鉄骨に向く部分、RCを用いる部分を分ける混構造を採用しました。 建物中央部を鉄骨造として設備配管や耐震要素を集約し、両端の客室エリアに木造フレームを展開するなど、「適材適所」で木材利用量を増やしているのがポイントです。 日刊建設工業新聞も、設備配管の制約や銀座地区の高さ制限に対応しながら必要な階高を確保する構造計画に注目しています。
ここには今後の中大規模木造建築を考えるうえで重要な示唆があります。 木造化とは、S造やRC造で成立していた建築をそのまま木に置き換える作業ではありません。 構造計画、設備ルート、防耐火、遮音、意匠、施工方法、木材調達までを早い段階から一体で検討する必要があります。 「どれだけ木を使うか」だけでなく、「建物として合理的に成立させながら、どこまで木を使えるか」が勝負になるわけです。 本計画が国の先導枠で評価された背景にも、こうした総合的な設計・施工上の工夫があります。
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日鉄興和不動産とはどのような不動産会社なのか
日鉄興和不動産は、オフィス、住宅、物流施設、商業施設、不動産ソリューション、再開発、ホテルなど幅広い事業を展開する総合不動産会社です。 今回のプロジェクトでは、同社の不動産開発力に加えて、日本製鉄グループとの地域的なつながりや、近年拡大しているホテル事業が交差しています。
会社の成り立ちを見ると、「日鉄」の名前だけで事業領域を判断できないほど幅広い不動産事業を手掛けています。
日鉄興和不動産は1952年10月に創業(2012年に興和不動産と新日鉄都市開発が統合)し、資本金198億円、従業員数597名(2026年3月時点)を擁する総合不動産会社です。 主要株主には日本製鉄が名を連ねています。 事業領域はオフィスビルの開発・賃貸・管理、マンションや戸建住宅の開発・分譲・賃貸、物流・商業施設、外国人向け高級賃貸住宅、不動産売買・仲介、鑑定、コンサルティング、不動産証券化など多岐にわたります。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 商号 | 日鉄興和不動産株式会社 |
| 設立 | 1997年3月24日 |
| 創業 | 1952年10月15日 |
| 資本金 | 198億円 |
| 従業員数 | 597名 |
| 本社 | 東京都港区赤坂 |
| 主要株主 | 日本製鉄など |
| 主な事業 | オフィス、住宅、物流・商業施設、不動産ソリューションなど |
数値はいずれも同社が公表する2026年3月31日時点の会社情報です。
今回の木挽ビルホテル計画との関係で見逃せないのが、日鉄興和不動産には岩手県釜石市にも事業所があり、日本製鉄北日本製鉄所釜石地区が立地する釜石とのつながりを持っていることです。 同社は今回、釜石森林組合と連携し、釜石産材の活用を進める方針を示しています。 不動産会社が都市部で建物を建てるだけでなく、地方の森林資源、林業、木材供給と都市開発を結びつけようとしている点が、この事業のもう一つの特徴です。
ホテル事業では「&Here」を軸に拡大を進めており、木挽ビルホテルはその上位グレードを担います。
「&Here」は日鉄興和不動産が展開するレジデンシャルホテルブランドで、家族や友人など複数人での旅行や中長期滞在を想定しています。 すでに上野、大阪難波、新宿などに展開しており、同社は2027年以降も福岡・博多、浅草、大阪、那覇、銀座などで開発を進める計画を公表しています。
木挽ビルホテル計画は、この「&Here」で初となる上位グレードホテルです。 日鉄興和不動産は、これまで培ってきた多人数・中長期滞在への対応力を引き継ぎながら、銀座という国際観光エリアに合わせ、より上質な滞在体験を提供する新たなフラッグシップを目指すとしています。 つまり、建築そのものの実験性だけでなく、ホテルブランド戦略上も重要なポジションを担う開発です。
ここが建設業界の視点でも面白いところです。 先進的な環境技術は、単独では事業になりません。 宿泊者が「木の構造を見て、触れて、感じられる」ことまで商品価値につなげられるホテルだからこそ、構造材や耐震部材を積極的に「あらわし」にし、外装や客室デザインにも木造技術を展開する意義が生まれます。 技術を隠すのではなく、技術そのものを空間価値に変える設計思想が、本計画の大きな特色といえるでしょう。
「(仮称)木挽ビルホテル計画」は何が技術的にすごいのか
木挽ビルホテル計画では350㎡を超える木材を使用し、木柱・木梁、CLT耐震壁、耐震木ブレース、木鉄ハイブリッド柱など、複数の技術を一つの高層ホテルに組み合わせます。 さらに国の評価資料では、防耐火、遮音、メンテナンスまで含めた詳細な工夫が明らかになっています。
ポイントは、「中央を鉄骨、両端を木造」という構造の役割分担です。
三菱地所設計は、建物全体を木造とした場合、S造と比べて梁せいが大きくなりやすく、梁を設備配管が貫通する際にも大きな制約が生じると説明しています。 さらに銀座地区では地区計画による建物高さの制限があるため、決められた高さの中で客室数と必要な階高を確保する必要があります。 そこで本計画では、建物中央部を鉄骨造にし、設備配管や耐震要素を中央へ集約。 建物両端の客室部分を木造フレームとする構成を採っています。
中央部では、客室の戸境壁に内装も兼ねるCLT耐震壁を配置し、外周部には耐震木ブレースを採用します。 これらに建物の水平力を負担させることで、両端の木造客室エリアは主として鉛直荷重を負担する構成とし、木造部材の断面を合理的に抑えながら必要な階高を確保する考え方です。 耐震木ブレースは構造材でありながら、木そのものを見せる意匠要素としても使われます。
さらに建物全体には「木鉄ハイブリッド柱」「配筋付製材型枠」なども導入され、木造の客室フレームだけでなく、建物各所で木質化を進めます。 木材使用量は350㎥超。 この「一つの工法に依存せず、複数の技術を建物内で使い分ける」という設計が、高層ハイブリッド木造の実用化という意味で重要です。
| 建築上の課題 | 木挽ビルホテル計画の対応 |
|---|---|
| 木梁では設備貫通に制約が出やすい | 中央のS造部分へ設備を集約 |
| 高さ制限の中で階高を確保したい | S造と木造を役割分担 |
| 高層建築として耐震性能が必要 | CLT耐震壁・耐震木ブレースを採用 |
| 木材使用量を増やしたい | 木柱・木梁・木鉄ハイブリッド柱などを併用 |
| ホテルとして遮音性が必要 | CLT耐震壁と遮音間仕切りを一体化 |
| 木をホテルの価値として見せたい | 構造材を客室や外観のデザインに展開 |
上記は三菱地所設計の発表と国の先導枠評価資料を基に整理しています。
さらに掘り下げると、防耐火と維持管理の設計もかなり踏み込んでいます。
国土交通省の支援制度に関する評価資料では、プレスリリースより詳細な技術内容が公表されています。 防耐火面では、2時間耐火のCFT柱「木被覆耐火鉄骨ドレスウッド」や、1.5時間耐火の木質耐火部材「クールウッド」を梁に採用。 鉄骨梁と木梁を組み合わせた部分では、設備貫通を鉄骨部分に設けることで、木梁への貫通という難題を回避する工夫も盛り込まれています。
CLT耐震壁については、鉄骨大梁との取り合いでスラブ厚を確保して熱橋に配慮するとともに、遮音間仕切りと一体化して耐火・遮音の双方を成立させる計画です。 ホテルでは客室間の遮音性能が商品品質に直結するため、構造合理性だけで完結せず、ホテル用途に必要な性能まで同時に処理しているところが実務的です。
耐久性についても、耐震木ブレースやCLT耐震壁の仕上げに不燃木や強化石こうボードを使用しつつ、将来の張り替えが可能なディテールとしてメンテナンス性を高める計画とされています。
中大規模木造が広がるためには、「完成時に成立する」だけでは足りません。 長期間使われる建築物として、更新や修繕をどのように行えるかまで設計する必要があります。 国の評価委員会が耐久性や維持管理も審査項目としていることからも、その重要性が分かります。
GLC job目線でいえば、この現場は木工事だけを見ればよいプロジェクトではありません。 S造、RC造、木造、耐火被覆、設備、内装、外装をどう納めるのか、異種材料の境界部分こそが品質管理上のポイントになります。 構造・設備・施工図の調整能力が問われる、まさに次世代型の建築プロジェクトといえるでしょう。 これは公表された構造計画から読み取れる実務上のポイントです。
「優良木造建築物等整備推進事業」先導枠に採択された意味
「優良木造建築物等整備推進事業」は、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、炭素貯蔵効果が期待される中大規模木造建築物の普及や、先導的な木造設計・施工技術の社会実装を支援する国土交通省の事業です。 木挽ビルホテル計画は2026年度第1回募集の「先導枠」に採択されました。
「木をたくさん使えば採択される制度」ではないことが重要です。
制度の普及枠では、主要構造部に一定量以上の木材を使用することに加え、一定以上の建築規模、不特定または多数の人が利用する用途、ZEH・ZEB水準への適合、木造建築の普及啓発、再造林または再利用などにつながる取り組みが求められています。 また、延床面積2,000㎡以上の大規模建築物を新築する場合にはLCCO2評価を実施し、結果を国へ報告することも要件です。
その上で「先導枠」には、防火・構造などについて先導性を持つことが求められ、有識者委員会がその内容を評価します。 先導枠の補助率は、調査設計費について木造化に関する費用の2分の1以内、建設工事費について木造化による掛かり増し費用の2分の1以内、または建設工事費の10%以内。 制度上の補助上限額は3億円です。 なお、これは制度上の上限であって、補助金が無条件で3億円支給されるという意味ではありません。 木挽ビルホテル計画については、採択プロジェクト一覧にも補助限度額3億円と記載されています。
| 比較項目 | 普及枠 | 先導枠 |
|---|---|---|
| 主な狙い | 中大規模木造の普及 | 先導的技術の社会実装・普及 |
| 基本条件 | 一定量の木材利用、規模、環境性能など | 普及枠の条件に加え防火・構造等の先導性 |
| 調査設計費 | 木造化関連費の1/2以内 | 木造化関連費の1/2以内 |
| 建設工事費 | 掛かり増し費用の1/3以内、または工事費7%以内 | 掛かり増し費用の1/2以内、または工事費10%以内 |
| 補助上限 | 2億円 | 3億円 |
令和8年度制度資料による比較です。
では、木挽ビルホテル計画の何が評価されたのでしょうか。
令和8年度第1回募集の先導枠には2件の応募があり、「鹿島東北支店ビル新築工事」と「(仮称)木挽ビルホテル計画」の2件が採択されました。 評価委員会は、要件適合性だけでなく、構造・防火面の技術的な先導性、建築生産システム、耐久性、普及・啓発効果などの観点から審査を実施しています。
木挽ビルホテルについては、CLT耐震壁、両端部の木造フレーム、木製ブレース、耐火部材、鉄骨梁と木梁を組み合わせた構成、CLT耐震壁と遮音間仕切りの一体化、交換可能な仕上げ、釜石地域材のグレーディングなど、多面的な提案が評価資料に記載されています。 特に興味深いのは、評価委員会が「木材量を増大させるだけの提案は評価されない」と明確に示している点です。 既存技術の組み合わせでも、コスト、生産性、耐久性、実現性まで含めて木造建築の普及につながることが重視されています。
日鉄興和不動産は、三菱地所設計による積極的な木材活用の設計提案と、熊谷組がECI方式で設計段階から技術協力したことが採択につながったとの認識を示しています。 つまり、設計を完成させてから施工会社に渡すのではなく、施工条件や実現性を早い段階で検証しながら計画を詰めてきたこともポイントです。
中大規模木造では、構造、耐火、設備、木材調達、施工手順が密接につながります。 設計者だけ、施工者だけ、木材メーカーだけでは解決できない課題が多いからこそ、プロジェクト初期から各プレイヤーの知見を束ねる重要性が高まります。 木挽ビルホテルは、その協働のあり方まで含めて今後の参考事例になりそうです。 これは制度の評価内容とプロジェクトの進め方から導ける見通しです。
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釜石産材・LEED・SITESに見る「環境配慮型ホテル」の本当の狙い
本計画では木造化だけを環境対策として掲げているわけではありません。 釜石産材の利用、森林循環、屋上ガーデン、生物多様性、省エネルギー、国際環境認証を組み合わせ、建物・外構・ホテル運営を横断した環境性能向上を目指しています。
まず重要なのが、銀座と釜石を木材で結ぶ地域連携です。
本計画では、岩手県釜石市産の木材を中心に350㎡を超える木材を使用します。 日鉄興和不動産は釜石森林組合との連携を進め、木材需要の大きな東京と森林資源を持つ地域をつなぐことで、森林循環と地域林業の活性化を目指しています。
さらに三菱地所設計によれば、地域材は一本ずつ含水率や強度などを確認するグレーディングを行い、それぞれの特性を構造計画に反映します。 釜石ならではの広葉樹についても内装材や家具に利用する計画です。 地域材を「産地の物語を伝える仕上げ材」として使うだけでなく、性能を確認したうえで構造材にも展開する点が重要でしょう。
この考え方は建設業界にとっても大きな意味を持ちます。 中大規模木造が増えれば、木材は現場へ来てから加工すればよい材料ではなくなります。 山側の原木供給、製材、乾燥、強度確認、加工、運搬、現場施工までを一つのサプライチェーンとして管理する必要が出てきます。 国の評価資料でも、材料調達の工夫や地域材のグレーディング、生産システムが評価対象とされています。 したがって、今後は施工管理側にも木材の品質や調達工程を理解する力が一段と求められるとGLC jobは見ています。
もう一つの柱が、LEED GoldとSITES Goldという二つの国際認証です。
日鉄興和不動産は木挽ビルホテルについて、「LEED Gold」と「SITES Gold」の取得を予定しています。 ここで注意したいのは、2026年10月時点ではあくまで「取得予定」であり、すでに認証済みではないことです。
LEEDは、米国グリーンビルディング協会が展開する国際的なグリーンビルディング評価制度で、エネルギーや水、材料、室内環境などを含めた建築物の環境性能を評価します。 認証はCertified、Silver、Gold、Platinumの4段階で、現在の制度ではGoldは60~79ポイントに相当します。
一方、SITESは建物そのものよりも、ランドスケープや屋外空間、敷地の持続可能性を評価する制度です。 SITES公式情報では、水利用、雨水、生物多様性、生息環境、エネルギー、人の健康など幅広い観点を扱い、Goldは100~134ポイントです。 LEEDが建物と敷地を対象とするのに対し、SITESは主として建物以外の敷地環境を深く評価するため、両者を組み合わせることで建築とランドスケープを横断した評価が可能になります。
木挽ビルホテルでは、屋上ガーデン、生物多様性への配慮、エネルギー効率向上なども計画されています。 つまり「木造だから環境配慮型」という単純な構図ではなく、構造材、地域材、エネルギー、緑化、生態系、ホテル運営まで積み上げて環境価値をつくろうとしているのです。
建設実務では、こうした認証を取得する案件ほど、完成した建物の姿だけではなく、設計・調達・施工の過程を記録し、根拠資料として残すことが重要になります。 国の優良木造建築物等整備推進事業でも、補助事業に関係する資料や経理書類などを事業完了年度終了後10年間保存する義務が示されています。 環境性能や公的支援と結びつく建築では、施工品質だけでなく「証明できる施工管理」の重要性も高まっているといえるでしょう。
木挽ビルホテル計画から考える建設業界と人材の今後
木挽ビルホテルは2029年10月の開業を予定しており、これから約3年間にわたって施工が進められます。 GLC jobとして注目したいのは、この一棟のホテルだけではなく、ここで蓄積される技術や施工ノウハウが、その後の都市型木造・木質建築へどのように展開されるかです。 国の制度そのものが普及・波及を目的としているため、このプロジェクトは完成後まで含めて「技術を広げる役割」を期待されています。
今後、中大規模木造で価値が高まりそうなのは「木造だけに詳しい人」ではなく、異なる専門領域をつなげられる人材です。
本計画を見ても、木構造だけで成立しているわけではありません。 S造・RC造・木造が混在し、CLT耐震壁や耐震木ブレース、防耐火部材、設備配管、遮音間仕切り、内装、外装、環境認証が相互に関係しています。 例えば木梁を太くすれば設備ルートに影響し、耐火被覆を変えれば意匠や納まりが変わり、木材の「あらわし」を増やせば施工中の養生や完成後の維持管理も重要になります。
そのため施工管理者には、構造図だけを見る力ではなく、設備・意匠・耐火・木工事の干渉を事前に洗い出す調整力が求められます。 設計者についても、木材の断面や接合部だけではなく、鉄骨との取り合い、設備貫通、耐火認定、遮音性能まで横断して理解する必要があります。 これは本プロジェクトで実際に採用されている技術の組み合わせから読み取れる人材像です。
| 今後重要性が高まりそうな実務領域 | 木挽ビルホテルで見える理由 | 関連しやすい職種 |
|---|---|---|
| 木造・S造・RC造の混構造 | 3構造を組み合わせた高層ホテル | 構造設計、施工管理 |
| 設備と構造の事前調整 | 中央S造部へ設備配管を集約 | 設備設計、設備施工管理 |
| 防耐火設計・施工 | 2時間耐火CFT柱、木質耐火梁など | 建築設計、施工管理 |
| CLT施工 | 耐震壁と戸境壁・遮音を一体化 | 木工事、施工管理 |
| 木材品質・調達管理 | 釜石材をグレーディングして利用 | 調達、品質管理、施工管理 |
| 環境性能の記録・管理 | LEED SITES取得予定 | 設計、設備、環境担当 |
| 維持管理を見据えた納まり | 交換可能な仕上げを採用 | 設計、施工、FM |
これは将来の採用人数を予測したものではなく、本計画で必要とされている技術領域から、建設技術者のキャリアに関係するテーマを整理したものです。
特に注目したいのが、「施工段階で初めて木造を考える」のでは遅い時代になっていることです。 日鉄興和不動産は、本計画について三菱地所設計の設計提案に加え、熊谷組によるECI方式での技術協力を通じて、設計・施工の双方から木造化の課題解決を進めてきたと説明しています。 施工会社が持つ施工性、コスト、調達、工程などの知見を上流段階から織り込むことが、中大規模木造の実現性を高める一つの方法として示されています。
施工会社側には熊谷組だけでなく、木造技術と木材調達ノウハウを持つ住友林業がJVとして参加しています。 設計監理は三菱地所設計、内装は乃村工藝社。 木材については釜石森林組合との連携も進めます。 一つの会社がすべてを抱え込むのではなく、構造、施工、木材、内装、地域を横断するチームで成立させるプロジェクトです。
国の先導枠でも、木造建築の普及・啓発や設計・施工に関する技術的支援への協力が要件に盛り込まれています。 したがって、木挽ビルホテルで得られる知見が、この建物だけの特殊解として終わらず、別のホテル、オフィス、商業施設などへ応用されていくことが制度上も期待されています。
建設業界で働く方、これから建設業界を目指す方にとっても、ここは重要です。 木造・木質建築が中高層化すれば、従来の住宅木造だけではなく、ゼネコンの建築施工、構造設計、設備施工、積算、調達、品質管理、環境認証など、幅広い職種に木造の知識が入り込んでいきます。 これは「木造専門職だけの市場」ではなく、既存の建築技術に木材という新しい選択肢が加わっていく流れとして捉えるべきでしょう。 本計画のような混構造プロジェクトは、その変化を象徴しています。
まとめ|銀座の一棟から見えてくる中大規模木造建築の次のステージ
日鉄興和不動産が2026年10月に着工した「(仮称) 木挽ビルホテル計画」は、東京都中央区銀座七丁目に地上12階・地下1階、延床面積約9,742㎡、130室のホテルを建設し、2029年10月の開業を目指すプロジェクトです。 「&Here」初の上位グレードホテルであり、同社にとって初の高層ハイブリッド木造建築でもあります。
しかし、建設業界の視点から本当に注目すべきなのは、「銀座に木造ホテルができる」という表面的な話だけではありません。 本計画では、建物中央部をS造とし、設備配管と耐震要素を集約しながら、建物両端に木造フレームを展開。 CLT耐震壁、耐震木ブレース、木鉄ハイブリッド柱、配筋付製材型枠などを組み合わせ、350㎡を超える木材利用を実現します。
さらに国の評価資料を見ると、2時間耐火のCFT柱、1.5時間耐火の木質耐火梁、鉄骨梁と木梁を組み合わせた設備貫通への対応、CLT耐震壁と遮音間仕切りの一体化、交換可能な仕上げなど、ホテルとして現実的に運用するための防耐火・遮音・維持管理まで設計されています。 木材量の多さではなく、「都市部の高層建築として木を合理的に使い切る設計」が評価されている点が重要です。
GLC jobとして最も注目したいのは、このプロジェクトが建設技術者の仕事の変化を映していることです。 これからの中大規模木造では、「木造か鉄骨か」という二者択一ではなく、木、鉄、コンクリートを使い分けながら、構造・設備・防耐火・遮音・意匠・調達・施工を一体で最適化する力が問われます。 木挽ビルホテル計画は、その実践例の一つです。
国土交通省の優良木造建築物等整備推進事業が、単なる木材使用量ではなく、技術の先導性、実現性、コスト、生産性、耐久性、普及効果を評価していることも見逃せません。 都市型木造建築が「珍しい挑戦」の段階から、再現可能な建築技術へ移行するためには、設計者、ゼネコン、専門工事会社、設備会社、木材事業者、林業関係者までをつなぐ人材と仕組みが不可欠です。
2029年の完成までには、現場でしか分からない施工上の知見も数多く蓄積されるでしょう。 本計画が銀座の新しいホテルとしてどのような価値を生み出すのかと同時に、ここで磨かれた高層ハイブリッド木造の設計・施工技術が、その後のオフィス、ホテル、商業施設などへどこまで広がるのか。 建設業界で働く人にとって、今後も継続して追いかける価値のあるプロジェクトです。
参照元:日鉄興和不動産「(仮称)木挽ビルホテル計画」ニュースリリース / 三菱地所設計「(仮称)木挽ビルホテル計画」/国土交通省「令和8年度 優良木造建築物等整備推進事業(先導枠)」/日刊建設工業新聞
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