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建設現場の脱炭素化が、新たな段階に入りつつあります。2026年10月、鹿島建設、清水建設、東急建設、NIPPOを含む9社が、経済産業省・資源エネルギー庁による「クリーン燃料証書制度」の実証事業に参画すると発表しました。
実証の軸となるのは、廃食油などを原料とする次世代燃料「HVO」と、その燃料が持つ「環境価値」を証書として切り離して移転する仕組みです。重機や車両など、すぐには電動化しにくい機械を多数使う建設業にとって、この制度はなぜ重要なのでしょうか。
今回は施工王が、ゼネコンによる次世代燃料活用の狙いからクリーン燃料証書制度の仕組み、参加企業、今後の建設現場や仕事への影響まで詳しく解説します。
ゼネコン各社が参加する「次世代燃料活用」の実証とは
鹿島建設や清水建設をはじめ、エネルギー、通信、海運、物流、航空など異なる業界の企業が一つの実証に集まりました。単に新しい燃料を試すだけではなく、「低炭素燃料が持つ価値をどう認証し、企業の脱炭素化に反映するか」を確かめる点が今回の大きな特徴です。
鹿島・清水建設ら9社が2026年10月に実証へ
2026年10月8日に実証への参画を発表したのは、NTTドコモ、ENEOS、鹿島建設、清水建設、鶴見サンマリン、T2、東急建設、NIPPO、日本航空(JAL)の9社です。事業名は「令和8年度環境価値認証制度等整備事業(次世代燃料の環境価値認証・移転制度構築検討に向けた実証事業)」。経済産業省・資源エネルギー庁が制度構築を進めています。
今回のポイントは、建設会社だけで完結する取り組みではないことです。ENEOSは実証で使用するHVO (Hydrotreated Vegetable Oil、水素化処理植物油)の輸入と環境価値証書の提供を担い、ENEOS以外の連名8社に加え、トヨタ自動車を含む複数企業が需要家として実証に参加します。各社は証書を実際の事業活動にどう利用できるのか、どのような運用ルールが必要になるのかを検証します。
建設業界で特に目を引くのが、鹿島建設、清水建設、東急建設、NIPPOという建設・舗装分野の企業が加わったことです。日刊建設工業新聞は、ENEOSがHVOと環境価値証書を提供し、ゼネコンなどが需要家企業として現場の重機等で活用すると報じています。建設業にとって燃料は、単なる経費ではなく「現場のCO2排出に直結する資材」として扱われる時代が本格的に近づいている、と施工王は見ています。
これまで建設会社の脱炭素策というと、再生可能エネルギー由来電力の導入、建物のZEB化、電動建機の導入といった話題が目立ちました。しかし、土工、道路、トンネル、造成などの現場では、長時間稼働する重機や大型車両をすべて一気に電動化できるわけではありません。そこで「今ある内燃機関や燃料インフラを生かしながら、燃料側を低炭素化する」という選択肢の重要性が増します。今回の実証は、その選択肢を社会全体で使える仕組みにするための一歩と位置付けられます。
建設現場で注目したいのは「燃料」と「環境価値」を分ける発想
今回のニュースを理解するうえで最も重要なのは、HVOという新しい燃料そのものだけを見ないことです。
クリーン燃料証書制度の本質は、次世代燃料から「環境価値」を切り離し、証書という形で別の需要家へ移転できるようにする点にあります。共同発表では、認証された環境価値を証書化したうえで、現物の燃料は環境価値を切り離して消費し、一方の環境価値は需要家企業が購入できる仕組みとして説明されています。
なぜ、わざわざ分ける必要があるのでしょうか。
例えば山間部の土木現場や期間限定の建設現場で、HVOを使いたいとします。しかし、その現場だけのために専用の燃料輸送ルートや貯蔵設備を用意すると、コストも手間も増えます。十分な量のHVOを現場近くで継続して調達できるとも限りません。
そこで、ある場所で生産・供給された次世代燃料の環境価値を制度上きちんと認証し、別の場所にいる需要家が証書として取得するという考え方が出てきます。ENEOSも、専用設備を整備せず、燃料供給地から離れた地域でも仕組みを利用できる点を制度のメリットとして挙げています。
実際、自動運転トラックを手掛けるT2は今回、すべての拠点に次世代燃料用タンクを設置できるとは限らないという現実的な課題を挙げています。敷地面積や車両動線によってタンク設置が困難な場所では、HVOそのものを直接給油する方法だけでなく、HVO由来の環境価値証書を利用する方法を組み合わせる考えです。
仮設性が高く、工期が終われば撤去・移転する建設現場にも、同じ発想は応用しやすいでしょう。これは施工王の見立てですが、「すべての現場へ新燃料の専用インフラを整備する」のではなく、「直接利用できる現場では次世代燃料を使い、物理的に難しい場所では環境価値の移転を活用する」という組み合わせが、建設業で普及するうえで一つの現実解になり得ます。
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クリーン燃料証書制度とは何か
クリーン燃料証書制度は、燃料を運ぶ仕組みそのものを置き換えるのではなく、「次世代燃料を使ったことで生じる環境価値」を認証・管理・移転できるようにする制度です。物理的な燃料の流れと、環境価値の流れを分けるところに大きな意味があります。
「燃料そのもの」と「環境価値」を切り分けて扱う仕組み
通常、低炭素燃料の恩恵を受けるには、その企業自身が低炭素燃料を購入し、自社の車両や設備へ実際に給油するイメージを持つでしょう。
クリーン燃料証書制度では、この考え方を広げます。次世代燃料が持つ「化石燃料から転換したことによる属性・環境価値」を認証し、その価値を燃料現物から切り離して移転できるようにします。ENEOSが2026年6月に根岸製油所へ輸入したHVOでも、「Book and Claim (ブック・アンド・クレーム)」方式によって、低炭素燃料の環境価値を現物から分離し、帳簿上で管理して証書として需要家へ移転する取り組みが示されています。
流れを簡単にすると、次のようなイメージです。
| 段階 | 何が行われるか |
|---|---|
| 次世代燃料の製造・調達 | HVOなど、化石燃料よりライフサイクル排出削減が期待される燃料を供給 |
| 環境価値の確認・認証 | 燃料由来の環境価値を一定のルールに基づき確認 |
| 証書化 | 環境価値を現物燃料から切り離して管理 |
| 移転 | 証書を需要家企業へ移転 |
| 利用・管理 | 需要家が自社の脱炭素化に反映するために証書を活用 |
大切なのは、クリーン燃料証書を一般的な意味での「何にでも使えるCO2削減券」と考えないことです。あくまで次世代燃料というエネルギーの利用・供給に結び付いた環境価値を認証し、移転する制度として設計が進められています。今後、企業の排出量算定へどこまで、どのような条件で反映できるかについては、実証を通じたルール整備が必要です。
特に重要なのが、同じ環境価値を複数の企業が同時に自社の成果として扱わないための管理です。証書の発行、保有者の移転、最終的な利用までを追跡できなければ、制度への信頼は成り立ちません。そのため今回の実証は、単にHVOが重機で動くかどうかを確認するだけではなく、「誰が、いつ、どの環境価値を持っているのか」を管理する制度面の検証でもあるのです。
Book and Claimが建設現場にもたらす実務上のメリット
Book and Claim方式のメリットが分かりやすく表れた事例が、先ほど紹介したT2です。
T2は、自動運転トラックの運行拠点「トランスゲート」に次世代燃料のタンクを設置する構想を進める一方、敷地の広さや車両動線によってはタンクを置けない可能性があると説明しています。その解決策として、ENEOSが提供するHVO由来の環境価値証書を利用し、専用タンクや追加オペレーションを設けずに脱炭素化へ取り組むことを今回の実証で検証します。
この発想は建設現場とも相性があります。
| 比較項目 | 次世代燃料を現場へ直接供給 | 環境価値証書を活用 |
|---|---|---|
| 燃料の現物 | 次世代燃料を直接使用 | 既存燃料を使用するケースも想定 |
| 現場への供給網 | 必要 | 現物の供給地と離れていても活用しやすい |
| 専用タンク等 | 条件によって必要 | 新設を抑えられる可能性 |
| 現場オペレーション | 給油方法等の確認が必要 | 既存の運用を維持しやすい |
| 環境価値 | 燃料と一体で扱う | 証書として切り離し・移転 |
| 主な課題 | 供給量、価格、保管、機械適合性 | 認証、トレーサビリティ、算定ルール |
建設現場は工場のような恒久施設とは異なり、数カ月から数年で拠点自体がなくなることがあります。施工場所も都市部だけでなく、山間部、沿岸部、高速道路、トンネル、ダムなど全国に広がります。その一つひとつに新しい燃料インフラを置かなければ脱炭素化できないとなれば、普及の速度は上がりません。
一方、証書という仕組みを使えば、「次世代燃料を供給しやすい場所」と「その環境価値を必要とする場所」を必ずしも一致させる必要がありません。ENEOSも、需要家は供給地から離れていても活用でき、専用設備を整備せずに脱炭素化へ取り組める可能性を示しています。
ただし、証書は「燃料を使えばCO₂が物理的に出なくなる」という仕組みではありません。現場で既存燃料を燃焼すれば、その場では燃焼に伴う排出が発生します。ポイントは、別の場所で供給された低炭素燃料の環境価値を、明確なルールのもとで需要家へ配分することです。この違いを正確に理解することが、これから現場で制度を扱ううえで重要になります。
実証で使われるHVOはどんな次世代燃料なのか
今回の実証で中心となるのが「HVO」です。HVOは軽油に比較的近い性状を持つため、既存設備との親和性が高いとされています。建設業から見れば、「重機を全部買い替えなくても燃料側から脱炭素化を進められる可能性」が最大の注目ポイントです。
廃食油などを原料にする「リニューアブルディーゼル」
HVOは「Hydrotreated Vegetable Oil」の略で、日本語では水素化処理植物油と呼ばれます。廃食油などの油脂を水素化処理して製造するバイオ燃料で、「RD (Renewable Diesel/リニューアブルディーゼル)」とも呼ばれています。
ENEOSなど9社の今回の共同発表では、HVOは従来燃料と比べてライフサイクル全体で60~80%程度の脱炭素効果があると説明されています。また、SAF (持続可能な航空燃料)と同時に製造され、軽油に近い特性を持つことも特徴とされています。ここでいう「ライフサイクル」は、燃料を燃やす瞬間だけではなく、原料調達から製造、輸送、利用までを含めて評価する考え方です。
今回名前が挙がっている次世代燃料はHVOだけではありません。政府・企業資料では、次のような燃料が対象として想定されています。
| 次世代燃料 | 概要 | 主な利用先のイメージ |
|---|---|---|
| HVO/RD | 廃食油などの油脂を水素化処理 | ディーゼル車両、産業機械など |
| SAF | バイオマス・廃棄物等を原料とする持続可能な航空燃料 | 航空機 |
| バイオディーゼル | バイオマス由来のディーゼル代替燃料 | 車両、産業用途 |
| バイオメタン | バイオマス由来のメタン | ガス用途 |
| バイオメタノール | バイオマス由来のメタノール | 船舶・産業用途等 |
| eメタン | 水素とCO2などから製造する合成燃料 | 都市ガス等 |
| eメタノール | 水素とCO2などから製造する合成燃料 | 船舶・産業用途等 |
建設業の視点では、なかでも液体燃料であるHVOが分かりやすい存在です。油圧ショベル、ブルドーザー、ホイールローダー、発電機など、建設現場にはディーゼルエンジンを動力源とする機械が数多くあります。そこで「機械を丸ごと別方式へ置き換える」のではなく、燃料から段階的に低炭素化できる可能性が注目されているのです。
もちろん、HVOであればどの建機にも無条件で給油してよい、という意味ではありません。実際に使用する際には、各建機・車両メーカーの仕様、燃料規格、保証条件などを確認する必要があります。HVOの「軽油に近い」という特徴と、個々の機械への適合性は分けて考える必要があります。
既存インフラを活かしやすい「ドロップイン燃料」という強み
HVOが有力視される理由の一つが、既存の燃料設備を利用しやすいことです。
ENEOSは2026年6月、横浜市の根岸製油所へHVOを輸入したと発表しました。HVOは軽油と同等の性状を持ち、既存設備との親和性が高いため、根岸製油所では既存タンクへ受け入れ、既存燃料と混合して出荷できるとしています。
HVOを運んだのは、今回の9社にも入っている鶴見サンマリンです。同社は外航ケミカルタンカー「CRANE STELLA」を使ってHVOを根岸製油所へ輸送しました。鶴見サンマリンはHVOについて、既存のエンジン、燃料供給設備、配管を活用できる「ドロップイン燃料」として注目されていると説明しています。さらに同社自身もENEOSが提供するHVO由来の環境価値証書を調達しており、「燃料を運ぶ側」であると同時に「環境価値を利用する側」にも回っています。
この「既存資産を生かせる」という特徴は建設業では特に重要です。
ゼネコンや専門工事会社が保有・使用している建設機械を一斉にゼロエミッション機へ更新するとすれば、機械購入費だけでなく、充電・給電設備、施工計画、稼働時間、電力容量などを含めて大きな変更が必要になります。一方、既存機械の活用を前提に燃料から低炭素化できれば、現場を止めずに移行できる可能性があります。
施工王としては、建設業の脱炭素化は「電動化か、燃料転換か」という二者択一ではなくなると見ています。都市部の小型建機では電動化、長時間・高負荷で動く機械ではHVOなどの低炭素燃料、さらに現物供給が難しい場所では証書を活用する――。現場条件に応じた複数の技術を組み合わせることが、実務的なGXになっていくでしょう。HVOを巡る今回の実証は、その選択肢の一つを制度面から整える取り組みといえます。
実証に参加する9社の顔ぶれと役割
今回の実証には、建設会社だけでなく、石油元売、通信、海運、自動運転物流、航空まで幅広い企業が参加します。異なる燃料利用環境を持つ企業を横断して検証することで、特定業界だけの仕組みではなく、幅広い産業で使える制度へ発展させる狙いが見えてきます。
建設・エネルギー・物流・航空が参加する異色のチーム
参加9社を整理すると、次のようになります。
| 企業 | 主な事業領域 | 今回確認されている位置づけ |
|---|---|---|
| NTTドコモ | 通信・デジタル | 需要家として証書活用を検証 |
| ENEOS | エネルギー | HVO輸入、環境価値証書の提供 |
| 鹿島建設 | 建設 | 需要家として実証に参画 |
| 清水建設 | 建設 | 需要家として実証に参画 |
| 鶴見サンマリン | 海運 | HVOの海上輸送、証書調達 |
| T2 | 自動運転・物流 | HVO由来証書を自動運転トラック運行等で利用 |
| 東急建設 | 建設 | 需要家として実証に参画 |
| NIPPO | 道路舗装・土木・建築等 | 需要家として実証に参画 |
| 日本航空(JAL) | 航空 | 需要家として証書活用を検証 |
ENEOS以外の連名8社は需要家側として環境価値証書の活用を検証し、さらにトヨタ自動車など複数企業も参加します。建設会社については、日刊建設工業新聞が「現場の重機などに活用する」と報じています。
中でも具体的な利用イメージを公表しているのがT2です。T2はENEOSからHVO由来の環境価値証書を購入し、約30社の大手運送会社・荷主向けに展開する自動運転トラックの運行などで2026年10月以降利用するとしています。物理的に次世代燃料を給油する方式と、証書を利用する方式を併用する構想です。
鶴見サンマリンはさらに興味深い立場です。HVOをタンカーで日本へ運ぶ供給網の一端を担いながら、自社でも環境価値証書を調達しています。つまり、今回の実証は「燃料メーカー→ユーザー」という単純な一方向ではなく、生産・輸送・利用に関わる企業を横断したサプライチェーン全体の検証でもあります。
建設業に置き換えれば、将来は元請だけで完結する話ではありません。燃料会社、リース会社、建機メーカー、協力会社、運送会社、発注者など、多数の関係者が動く建設プロジェクトの中で、「どの燃料を誰が使い、その環境価値を誰が持つのか」を明確にする必要が出てくる可能性があります。
なぜ業界横断で検証する必要があるのか
クリーン燃料証書制度は、証書という「紙」やデジタルデータを発行すれば完成するものではありません。
例えば、同じ1単位の環境価値を燃料供給会社と需要家の双方が自社の脱炭素成果として重複計上してしまえば、制度への信用は崩れます。燃料を製造・輸入した段階から、認証、証書化、需要家への移転、最終利用まで一貫した記録管理が不可欠です。今回の共同発表でも、制度の有効性だけでなく「運用上の課題」を検証すると明記されています。
さらに産業によって燃料の使い方は大きく違います。
航空機ならSAF、トラックや建設機械なら軽油系燃料、都市ガスならメタン系燃料など、必要な燃料も設備も異なります。一方で企業が求めているのは、最終的には「自社の脱炭素化にどう反映できるのか」という共通の答えです。制度を産業横断で使えるようにするには、燃料の種類が変わっても環境価値を一貫した考え方で追跡できる基盤が求められます。
そして、この論点は建設会社にとって非常に重要です。
ゼネコンの施工現場では、元請所有の機械だけでなく、専門工事会社の機械、レンタル建機、運搬車両、発電機など、さまざまな主体が燃料を使います。「工事全体のCO2を減らしました」と発注者へ説明するとき、誰が取得した証書を、どの工事へ、どの量だけ割り当てるのかという実務ルールが必要になることが想定されます。
施工王が今回の実証で注目しているのは、まさにここです。HVOを重機へ入れて問題なく動いた、という技術実証だけなら一企業でもできます。しかし、社会的に認められる脱炭素効果として扱うには、会社や業界の境界をまたいでも追跡できる仕組みが欠かせません。
だからこそ、建設、石油、通信、海運、物流、航空という異なる産業が一緒に参加していること自体が、今回の実証の重要なポイントなのです。
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クリーン燃料証書制度の本格導入に向けた課題
制度が普及するには、「証書を買った企業が、どのような条件で脱炭素実績として扱えるか」を明確にする必要があります。実証は2026年度に始まり、その成果や国内外のルール変更を踏まえながら、2027年度以降の本格的な制度設計が検討される流れです。
最大の論点は「企業の排出削減としてどう扱うか」
ここで注意したいのが、「証書を購入すれば、その瞬間に自社の法定CO2排出量を自由に差し引ける」と制度が確定しているわけではないことです。
ENEOSなど9社の共同発表では、将来的にSHK制度やGHGプロトコルなど、国内外の制度・規制への対応を検討するとしています。言い換えれば、現在は「証書で移転した環境価値を企業の排出量算定にどのように反映させるのか」というルール自体を詰めている段階です。
SHK制度とは、日本の「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」を指します。企業が温室効果ガス排出量を算定し、一定の条件に該当する事業者が国へ報告する仕組みです。一方、GHGプロトコルは世界的に企業の温室効果ガス排出量算定で参照される枠組みです。
クリーン燃料証書制度が企業に広く使われるためには、こうした国内外の算定ルールと整合することが非常に重要です。共同発表が「企業の脱炭素化の取り組みに適切に反映できる仕組み」を目指しているのも、そのためです。
さらに実務では、少なくとも次のような点を明確にしていく必要があると考えられます。
| 制度上の論点 | 建設会社で想定される実務 |
|---|---|
| 環境価値の認証 | どの燃料由来の価値なのか確認 |
| トレーサビリティ | 証書の発行・移転履歴を保存 |
| 重複利用の防止 | 同じ価値を複数工事で使わない管理 |
| 工事への割り当て | どの現場・期間・機械に対応させるか整理 |
| 排出量算定 | 社内のCO2集計方法との整合 |
| 発注者への説明 | 工事単位の削減効果を裏付ける資料整備 |
これは、まだ制度設計中の部分を建設現場の実務へ当てはめた施工王の整理です。しかし、制度が普及すれば施工管理だけでなく、環境部門、調達部門、経理・サステナビリティ部門が連携するテーマになる可能性は高いでしょう。燃料の領収書だけを見る時代から、「どの燃料にどの環境価値が紐付いているか」まで確認する時代へ移っていく可能性があります。
実証から本格稼働、そして制度拡張へ
経済産業省の資料を転載した共同発表のロードマップを見ると、クリーン燃料証書制度は段階的に育てていく構想となっています。
第1段階は「実証」です。2025年度から準備が進められ、2026年度(2026年10月の発表等を含む)から本格的な実証事業がスタートしました。バイオ燃料や合成燃料などのサンプルを用いて、運営体制やルール、関係者間の手続きなどを確認します。まさに鹿島建設や清水建設らが現在取り組んでいるフェーズです。
第2段階は「本格稼働」。第1段階の結果やGHGプロトコルの改訂状況などを踏まえ、制度の本格稼働に必要な基準を検討します。政府資料では、バイオ燃料、合成燃料、廃棄物由来燃料など幅広い次世代燃料を対象とし、燃料製造・供給事業者と燃料の直接利用者による取引や、SHK制度・国内制度への対応などが示されています。検討時期は2027年度以降とされています。
一方、2026年10月9日の日刊建設工業新聞は「2027年度の制度開始を予定」と報じています。したがって2027年度は重要な節目になると考えられますが、本格運用の具体的な対象、参加条件、算定方法などは、今回の実証結果を踏まえて詰められるものと見るのが適切でしょう。
さらに第3段階には「拡張・発展」が示されています。経済産業省資料では、取引活性化に向けた価格公示機能の強化、取引方式の拡大、次世代燃料以外への対象拡張、原材料・製品モデルへの展開、海外制度との連携なども将来論として掲げられています。
ここまで進めば、クリーン燃料証書は単なる一回限りの実証ではなく、低炭素燃料の市場そのものを広げるインフラになり得ます。需要家が環境価値へ対価を払うことで、次世代燃料の供給者にも投資回収の道筋が生まれる。その循環が成立するかどうかが、今後の大きな焦点です。
ゼネコンの次世代燃料活用は今後どう広がるのか
建設業でクリーン燃料証書制度が定着すれば、燃料選びは「価格と安定供給」だけの話ではなくなります。燃料由来CO2、環境価値、証書管理まで含めた調達へ変わる可能性があります。重機の運用と企業のGX戦略が、より密接につながっていくでしょう。
「すべて電動化」ではなく現場ごとの最適な脱炭素へ
建設現場の脱炭素化を考えるとき、「いずれ建機は全部電動になる」と単純化するのは早計です。
建設機械には、小型の締固め機械から大型油圧ショベル、ブルドーザー、クレーン、ダンプトラック、発電機まで幅広い種類があります。要求される出力、連続稼働時間、充電環境、施工場所もまったく異なります。そのため、今後は一つの動力方式へ全面統一するのではなく、現場条件に合わせたエネルギーの使い分けが進むと施工王は見ています。
例えば、都市部で電源を確保しやすい現場では電動建機を使う。長時間稼働するディーゼル機械ではHVOなどの次世代燃料を直接使う。さらにHVOの物理的な供給が難しい地域や期間限定現場では、制度のルールが整えばクリーン燃料証書を組み合わせる――という考え方です。
今回の実証が興味深いのは、まさに「物理的に燃料を置けない場合」の解決策を実際の企業が検証している点です。T2は、タンクを置きにくい拠点が存在するため、次世代燃料の直接利用と証書利用を組み合わせます。建設現場も、すべての現場条件を燃料側へ合わせるのではなく、「現場を変えずに環境価値を届ける」仕組みを使えるようになれば、導入のハードルは下がります。
また、HVOは軽油に近い性状を持つことから、既存の燃料インフラとの親和性が高いとENEOSは説明しています。つまり建設会社にとっては、「既存機械を使い続けながら燃料を変える」という移行策が取りやすい点も大きな特徴です。
重要なのは、どれか一つの技術を万能視しないことです。施工条件、地域、機種、稼働時間、コスト、供給体制を比較しながら、電動化、次世代燃料、証書を使い分ける。その判断力が、今後のゼネコンの環境対応力を左右することになるでしょう。
脱炭素が「本社の環境活動」から「現場の施工計画」へ入ってくる
これまで現場担当者にとって、カーボンニュートラルは「本社の環境部門が扱う話」という感覚もあったかもしれません。
しかし、今回の実証はその距離を縮めます。日刊建設工業新聞が報じるように、ゼネコンが需要家として現場の重機等へ次世代燃料を活用するのであれば、燃料選定は施工そのものに関わるテーマになります。
将来的には、施工計画を立てる段階で「どの建機を何時間稼働させるか」と同時に、「どの燃料を使うか」「直接HVOを供給できるか」「環境価値をどう管理するか」を考える場面が増えるかもしれません。
例えば現場でHVOを直接使うのであれば、燃料の保管・配送、使用予定の建機との適合、協力会社との運用調整が必要です。一方、証書を利用するのであれば、どの工事に何単位の環境価値を充当するのか、証拠書類をどう保存するのか、発注者へどう説明するのかが重要になります。
そう考えると、クリーン燃料証書制度は「環境部門だけが知っていればよい制度」ではありません。
建設会社の中では、次のような部門・職種が関係する可能性があります。
| 職種・部門 | 今後重要になりそうなテーマ |
|---|---|
| 施工管理 | 建機の稼働、燃料使用量、施工計画との連携 |
| 建機・機械担当 | HVO等と機械の適合性、保守・運用 |
| 調達・購買 | 次世代燃料・証書の調達、価格比較 |
| 環境・GX担当 | CO₂算定、証書管理、環境価値の整理 |
| 積算 | 燃料・環境対応コストの工事費への反映 |
| 営業・提案部門 | 発注者へ低炭素施工を説明する材料 |
| 現場代理人・所長 | 現場全体の燃料・CO2マネジメント |
つまりゼネコンの次世代燃料活用は、単に「軽油を新しい油へ入れ替える話」ではありません。施工、生産性、調達、環境会計、発注者への説明までをつなぐ新しい現場マネジメントへ発展する可能性があるのです。
建設業で働く人・これから働きたい人に何が変わるのか
次世代燃料やクリーン燃料証書は、経営層だけが知っておく話ではありません。制度が実際の施工現場へ広がれば、施工管理、機械、調達、環境、営業など多くの職種で「燃料とCO2をセットで理解する力」が重要になると考えられます。
施工管理にも「燃料とCO2を管理する力」が求められる時代へ
施工管理技術者の仕事は、安全・品質・工程・原価の管理だけにとどまりません。近年はICT施工、BIM/CIM、ドローン、遠隔施工など、現場で扱う情報の幅が急速に広がっています。そこへ今後加わる可能性があるのが「エネルギーとCO2の管理」です。
クリーン燃料証書制度が定着すれば、例えば同じ油圧ショベルを使う場合でも、従来軽油なのか、HVOを直接使用しているのか、環境価値証書と組み合わせているのかによって、脱炭素化の説明方法が変わる可能性があります。
施工管理側も、燃料使用量を単に「今月は何リットル使った」と記録するだけではなく、「どの機械が、どの現場で、どの燃料を、どれだけ使用したか」を管理し、そのデータを環境部門へつなぐことが求められるようになるかもしれません。
さらに大規模工事では、元請だけでなく複数の協力会社が建設機械を持ち込みます。その場合、誰が燃料を調達し、誰が証書を取得し、その環境価値を工事全体でどう扱うのかという新しい管理項目が生まれる可能性があります。
ここで生きてくるのは、単なる環境知識ではありません。「実際の現場がどう動いているかを理解したうえで、CO₂管理の仕組みを運用できる人材」です。
現場を知らない人だけでは、給油動線や建機稼働、協力会社との役割分担まで踏まえた仕組みは作れません。逆に現場経験者がHVO、Book and Claim、環境価値、GHG排出量といった考え方を理解すれば、GXと施工をつなげる存在になれます。
施工王としては、ここが建設技術者にとって今回のニュースで最も注目すべきポイントの一つだと考えています。
次世代燃料の導入経験が新しいキャリアにつながる可能性
建設業では今後、「建物やインフラを造れること」に加えて「どれだけ環境負荷を抑えて造れるか」という視点が、さらに重要になっていくでしょう。今回、鹿島建設、清水建設、東急建設、NIPPOといった大手建設・舗装企業が国の実証へ参加していることは、その流れを象徴しています。
例えば今後、次世代燃料を使う工事を経験すれば、
- 「HVO導入時の建機・燃料管理に携わった」
- 「現場単位のCO2排出量を集計した」
- 「環境価値証書の管理フローを構築した」
- 「低炭素施工について発注者へ説明した」
といった、従来の施工管理とは異なる実績を持つ技術者が生まれてくる可能性があります。
現時点では実証段階であり、こうした経験が直ちに採用選考で有利になったり、特定の評価に結びついたりするわけではありません。しかし、各ゼネコンがGX(グリーンデジタルトランスフォーメーション)対応を強化するなかで、現場の施工管理と環境管理の両方を理解している人材のニーズは、中長期的に高まっていくと考えられます。
特に施工管理経験者は大きな可能性を持っています。なぜなら脱炭素技術を現場へ入れるとき、最後に必要なのは施工条件を理解して運用へ落とし込む力だからです。
燃料を変えれば機械は問題なく動くのか。供給が途切れた場合はどうするのか。保管場所はどこに置くのか。協力会社へどう周知するのか。工期や原価へどれだけ影響するのか――。こうした問いに答えられるのは、建設現場を知っている人です。
「GXの仕事」と聞くと、環境専攻やデータ分析の専門家だけの世界に感じるかもしれません。しかし実際には、技術を現場へ実装する過程で施工経験が必要になります。今回のゼネコンによる次世代燃料活用は、施工管理技術者がGXの担い手へと仕事の幅を広げるきっかけにもなり得るでしょう。
まとめ | クリーン燃料証書制度は「次世代燃料」と「建設現場」をつなぐ新たなインフラになるか
2026年10月に発表されたクリーン燃料証書制度の実証は、鹿島建設、清水建設、東急建設、NIPPOを含む9社が参画し、ENEOSが輸入するHVOとその環境価値を活用しながら、次世代燃料の普及に必要な制度・運用を検証する取り組みです。日刊建設工業新聞は、ゼネコンなどが需要家として現場の重機等へ活用すると報じています。
今回の動きを理解するうえで大切なのは、「HVOという新しい燃料が登場した」という一点だけで捉えないことです。
本当の変化は、燃料の現物と環境価値を切り分け、環境価値を証書として流通させようとしていることにあります。ENEOSが採用するBook and Claimの考え方では、低炭素燃料を物理的に届けにくい場所でも、その燃料が生み出した環境価値を需要家へ移転できます。専用設備を設置しにくい拠点で証書の活用を検討しているT2の事例は、この仕組みが持つ実務上の意味を分かりやすく示しています。
これは全国各地に現場が生まれては移動し、大型重機を大量に使う建設業とも相性の良い考え方です。HVOを直接供給できる現場では現物を使い、供給設備や物流面で難しい場所では環境価値を活用する。そこへ電動建機など別の技術も加え、現場条件に応じて最適な方法を組み合わせる――。そんな「複線型の脱炭素」が現実味を帯びてきました。これは今回の各社発表から施工王が読み取る、建設業にとっての大きな可能性です。
一方で、制度はまだ完成したわけではありません。企業の排出量算定へどのように反映するのか、SHK制度やGHGプロトコルとの整合をどう取るのか、環境価値の重複利用をどう防ぐのか、証書の取引や管理をどのように行うのかなど、実証で確認すべき論点が残されています。政府資料では2026年度を実証段階とし、本格稼働については2027年度以降に検討するロードマップが示されています。一方、日刊建設工業新聞は2027年度の制度開始を予定すると報じており、今後1~2年は制度設計を左右する重要な時期となりそうです。
そして建設業で働く人にとって見逃せないのが、脱炭素が「本社の環境施策」から「現場の施工管理」へ近づいていることです。
将来は重機の機種や稼働時間だけでなく、使用燃料、燃料由来のCO2、環境価値証書まで含めて工事を管理する場面が増えるかもしれません。施工管理、建機、調達、積算、環境、営業といった仕事の境界も変わっていく可能性があります。
建設業界では、ICT施工やBIM/CIM、自動化・遠隔化に続き、「GXを現場へ実装できる人材」が新たな役割を担う時代が近づいています。
鹿島建設や清水建設らが参加する今回の実証は、まだその入口です。しかし、クリーン燃料証書制度が社会インフラとして定着すれば、建設会社における燃料の意味は確実に変わります。
「どれだけ造ったか」だけでなく、「どのようなエネルギーで、どれだけ環境負荷を抑えて造ったか」。
そこまで含めて建設プロジェクトの価値を語る時代が、すぐそこまで来ているのかもしれません。
今回実証に参画する鹿島建設、清水建設、東急建設、NIPPOをはじめ、環境対応(GX)に注力する大手ゼネコン・舗装企業では、施工管理職や技術職の中途採用を積極的に行っています。最新の施工技術や環境対応プロジェクトに携わりたい方は、ぜひ「GLC Job」で各社の求人情報や採用要件をチェックしてみてください。
参照元:
経済産業省「クリーン燃料証書の検討状況及び今後の方向性について」/ENEOS 「クリーン燃料証書制度実証事業への参画について」 ,「根岸製油所へのHVO輸入について」/鶴見サンマリン「HVOの海上輸送および環境価値証書の調達」/T2 「クリーン燃料証書制度実証事業参画」/日刊建設工業新聞「ゼネコンら9社/次世代燃料活用の実証に参加」
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