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国土交通省が、道路の「地上」と「地下」を一体で管理する新たな仕組みづくりに乗り出しています。 その中核となるのが、道路施設、上下水道管、ガス管、電気・通信設備、路面下空洞、道路陥没履歴、地質・地盤といった情報を地図上で重ねて把握する「道路空間情報プラットフォーム」です。 国交省は2027年度内の構築・運用開始を目指しており、道路管理者だけでなく、インフラ事業者、建設会社、研究機関などを巻き込んだ道路空間マネジメントへ転換しようとしています。
なぜ今、国交省は道路空間情報の一元化を急ぐのでしょうか。 背景には2025年1月に埼玉県八潮市で発生した大規模な道路陥没事故に加え、地下インフラの老朽化、管理情報の分散、道路管理者と占用者との連携不足など、日本のインフラ管理が長年抱えてきた課題があります。
今回は、建設業界で働く人、これから建設業界を目指す人に向けて、道路空間情報プラットフォームの仕組みから制度改正、設計・施工・維持管理への影響、そして今後求められる人材まで、GLC Job目線で詳しく解説します。
国交省が進める道路空間情報の一元化とは
国交省が目指しているのは、単に道路関係の図面をデジタル化することではありません。 道路管理者と占用者が持つ情報を連携させ、「道路の上に何があり、地下のどこに何が埋まり、どこに異常の兆候があるのか」を面的に把握できる管理体制への転換です。
道路の「地上」と「地下」を一体で管理する仕組みへ
これまで道路管理では、道路そのものを管理する国や自治体と、地下に管路などを設置する上下水道、電力、ガス、通信などの事業者が、それぞれの目的に応じて情報を保有してきました。 道路管理者が持つ道路台帳と、占用者が持つ設備台帳、さらに空洞調査、陥没履歴、地質・地盤情報などが別々に存在しているため、道路空間全体の状態を横断的に把握しにくいことが課題でした。
そこで国交省が構想しているのが「道路空間情報プラットフォーム」です。 国交省資料では、既存の各種データベースなどとAPIで連携し、道路空間のマネジメントに必要な情報を地図や空中写真、台帳附図などに重ねて表示する姿が示されています。 対象として想定されているのは、占用物情報、路面下空洞情報、道路陥没実績、路面性状、地質・地盤、道路地下施設などです。つまり、一本の道路を「舗装」「下水道」「ガス」「電力」と別々に見るのではなく、同じ空間に存在する一つのインフラ群として捉える発想です。
たとえば道路のある地点で空洞が確認された場合、その直下や周辺にどのような地下施設があるのか、管路の位置や種類は何か、過去に陥没が発生していないか、地質条件に特徴はないかといった情報を組み合わせられれば、異常の原因や優先的に点検すべき施設を判断しやすくなります。 国交省も、地下施設の位置・点検結果と路面下空洞調査結果を組み合わせ、空洞発生要因の推定や施設点検の前倒しなどに活用する構想を示しています。
これは、道路維持管理を「異常が起きてから対応する仕事」から、「複数の情報を基に異常の兆候を捉え、先回りして対応する仕事」へ変えていく取り組みといえるでしょう。
2027年度内の構築・運用開始を目指す
国交省は道路空間情報プラットフォームについて、2027年度内の構築・運用開始を目指しており、そのための経費を2027年度予算の概算要求に盛り込んでいます。 運用開始後も、一度に完成形とするのではなく、扱える情報や機能を段階的に増やしていく方針です。
想定されている利用者も幅広く、国や地方公共団体などの道路管理者だけではありません。 上下水道、ガス、電力、通信などの占用者、民間企業、研究機関、さらには一般の人も閲覧主体として示されています。
ただし、地下ライフラインの詳細な位置情報などは保安上の配慮が必要になるため、誰がどこまで閲覧できるのかについては今後整理される見通しです。
ここで重要なのは、「2027年度に新しい地図サービスが一つできる」とだけ理解しないことです。 今回の取り組みは、占用申請、設備台帳、竣工情報、点検記録、空洞調査、陥没履歴など、道路の計画から施工、維持管理までに発生する情報のつながり方そのものを変える可能性があります。 建設会社にとっても、設計段階で何を確認するか、施工後にどのような成果を残すか、維持管理でどのようなデータを扱うかという実務へ影響が及ぶ可能性があります。
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道路空間情報プラットフォームは何を「見える化」するのか
道路空間情報プラットフォームの特徴は、「一つの巨大な台帳を新しく作る」というより、既に各機関が持っている情報をつなぎ、同じ地図上で把握できるようにする点にあります。 国交省が進めてきた道路DX「xROAD」や道路データプラットフォームとも関係する、大きなデータ連携構想です。
空洞・陥没・地下埋設物・地質まで重ね合わせる
国交省資料から、道路空間情報プラットフォームで想定されている主要な情報を整理すると、次のようになります。
| 情報の種類 | 想定される内容 | 建設実務で期待される活用 |
|---|---|---|
| 占用物情報 | 上下水道、電力、ガス、通信など | 埋設物確認、施工計画、干渉確認 |
| 路面下空洞情報 | 空洞位置、深さ、大きさ、評価など | 陥没リスク把握、調査・補修計画 |
| 道路陥没実績 | 発生地点、状況、復旧履歴など | 危険箇所の把握、原因分析 |
| 路面性状情報 | 舗装状態、変状など | 維持修繕箇所の選定 |
| 地質・地盤情報 | ボーリング、液状化傾向など | 設計、施工方法、リスク判断 |
| 地下施設の点検情報 | 点検結果、施設状態など | 点検優先順位、更新計画 |
| 道路施設情報 | 道路構造物など | 道路全体の維持管理 |
特に建設関係者に注目してほしいのが、地下施設の「平面位置」だけではなく「断面方向」まで視野に入っている点です。
国交省が示した全国統一型の占用関連システムのイメージでは、各占用物件について平面図と断面図による管理を行い、管種、外径、設置年といった属性情報も扱う想定です。 将来的な3D表示も示されています。
道路の掘削工事では、「図面上では問題がないと思ったが、掘ってみたら既設管が想定した場所になかった」という状況が工程や安全に大きな影響を与えることがあります。 地下空間をより正確に把握できるようになれば、設計変更や施工中の手戻り、近接する占用者との立会いなどを減らせる可能性があります。 国交省自身も、3次元の地下施設位置情報などを活用し、「手戻りの無い設計やICT施工」「近接占用者による工事立会の削減」を将来の活用例として挙げています。
道路空間情報の一元化は、安全対策であると同時に、生産性向上の施策でもあるわけです。
xROADや既存システムとどうつながるのか
道路空間情報プラットフォームを理解するうえで押さえておきたいのが、国交省が既に進めている「xROAD」です。
国交省道路局は、道路をSafe、Smart、Sustainableという「3つのS」の方向へ転換するため、管理、利用状況の把握、調査・計画、整備・機能強化、利活用という道路行政のサイクル全体のDXを「xROAD」と呼んでいます。 その基盤として整備されているのが道路データプラットフォームです。
従来、道路関係のデータは道路管理者や部門ごとに分散し、様式にも統一的なルールが十分整備されていないことが課題でした。 道路データプラットフォームは、それらを円滑に利用するための連携基盤として位置付けられています。
一方、道路空間情報プラットフォームは、特に道路空間の安全確保や地下施設管理に焦点当て、占用物、空洞、陥没、地質・地盤などを横断的に「見える化」する構想と捉えると分かりやすいでしょう。 国交省資料では、国土交通データプラットフォームや民間データ、全国統一型の占用関連システムなどとの連携も示されています。
つまり、道路空間情報プラットフォーム単独ですべての情報を抱え込むのではなく、各システムが持つデータをつなぎ、必要な場面で組み合わせて利用する方向です。
建設DXというと、BIM/CIM、ICT施工、ドローン、3次元点群など「現場単位のデジタル化」が注目されがちです。 しかし今後は、そこで作られた情報を発注者や他のインフラ管理者が長期にわたって使える形で引き継ぐことも、同じくらい重要になっていくでしょう。
なぜ道路空間情報の一元化が必要になったのか
今回の動きを理解するには、技術だけではなく、その背景にある道路陥没問題を見る必要があります。 特に大きな転機となったのが、2025年1月28日に埼玉県八潮市で発生した大規模な道路陥没事故です。 事故後、国交省では下水道だけの問題としてではなく、道路管理者と占用者を含む地下空間全体のマネジメントの問題として議論が進みました。
八潮市の道路陥没が突き付けた地下インフラ管理の課題
八潮市の事故は、老朽化した下水道管の破損に起因する大規模な道路陥没事故として、国の制度見直しを加速させる契機となりました。 国交省は事故を踏まえて有識者による検討委員会を設置し、2025年には複数回にわたって、下水道管路の点検、道路管理者とのリスク情報共有、施設再構築などを議論しました。
道路陥没は、一つの施設管理者だけで完結する問題ではありません。道路の下には下水道管だけでなく、水道管、ガス管、電力設備、通信設備、共同溝など、多数の施設が存在します。 道路管理者から見れば、道路の地下にさまざまな事業者の施設が入っている一方、それぞれの施設について最も詳しい情報を持っているのは占用者です。 そのため、安全性を確保するには、道路管理者と占用者の間で施設位置、点検計画、異常情報などを共有できる体制が必要になります。
国交省が道路法施行規則を改正した際も、八潮市の事故を背景として、道路管理者が占用物件の安全性や維持管理状況を確認できるようにし、道路占用者から安全性や点検結果などの報告を受ける仕組みを強化しました。日刊建設工業新聞によると、2021~2025年度の道路陥没件数は累計5万3,816件で、道路排水施設が要因のものが2万387件、道路占用物件が要因のものが9,391件とされています。 両者を合わせると55.2%に達します。
もちろん、すべての陥没が同じ原因、同じ規模というわけではありません。 それでも「道路表面だけを見ていれば安全を守れるわけではない」という事実は明確です。 道路地下まで含めた情報管理が必要とされる理由は、ここにあります。
図面があっても「実際の位置」が分からない問題
道路空間情報の一元化には、もう一つ重要な背景があります。 それが、地下施設の正確な位置情報を十分に把握できていないケースがあることです。
従来、道路管理者は占用許可の段階で占用物件の構造や工事方法などを審査してきました。 一方、国交省資料によると、占用工事完了後に占用者が道路管理者へ完了の報告・届出を行う一般的な法令上の仕組みや、正確な位置が分かる竣工図面の提出を全国的に求める制度は十分ではありませんでした。 国管理道路では運用上完了届を求めるケースがあっても、竣工図そのものの提出までは求めていなかったとされています。
地下工事に携わったことのある人なら、この問題の重さは想像しやすいでしょう。
設計時の計画位置と、施工後の実際の埋設位置が完全に一致するとは限りません。 現場では既設物、地盤状況、施工条件などによって位置を調整する場合があります。 しかし、その変更が正確な完成情報として引き継がれなければ、数十年後に別の工事をする人は古い図面を頼りに掘削することになります。
国交省が示した資料でも、設計図上の位置と実際に埋設された位置が異なる例を示し、工事後に正確な位置が分かる竣工図面を提出する仕組みの必要性を指摘しています。
つまり今回の道路空間情報の一元化では、「紙を電子化する」だけでは不十分です。
位置情報が正しいか。
情報が最新か。
施設の属性が揃っているか。
誰が更新するのか。
国交省もプラットフォーム整備上の留意事項として、測地系や座標変換を含む位置情報の整合、データの精度・鮮度、閲覧範囲、管理・更新体制とルールづくりを挙げています。
建設DXの本当の難しさは、データを作ること以上に「正しく更新し続けること」にあるのです。
道路法・下水道法の改正で何が変わるのか
道路空間情報の一元化は、システム整備だけで進められているわけではありません。 2026年には下水道法や道路法を含む法制度も改正され、道路管理者と道路占用者が連携して地下空間を管理するための仕組みが法的にも強化されました。
「占用物件等維持修繕協定」で管理者と占用者の連携を強化
2026年7月23日、「下水道法等の一部を改正する法律」が公布されました。 法律番号は令和8年法律第65号です。 改正内容には、下水道施設そのもののマネジメント強化に加えて、「道路地下空間の安全性確保」が盛り込まれています。
道路分野で特に重要なのが、「占用物件等維持修繕協定」の制度化です。これは、道路管理者と道路占用者が協定を結び、道路や占用物件の点検・修繕などを連携して行えるようにする仕組みです。 維持・修繕に関する費用負担についても、協定の中で取り決められる制度となっています。従来の道路管理では、「道路は道路管理者」「管路はそれぞれの占用者」というように管理主体ごとの縦割りになりやすい構造がありました。 しかし実際の地下空間では、道路と占用物は同じ場所に存在し、相互に影響します。
たとえば路面下に空洞が見つかった場合、それが道路構造側に起因するのか、地下管路の損傷に起因するのかを即座に判断できるとは限りません。 逆に地下管路で異常が見つかった場合、その上部の路面にどのような影響が出ているかを確認する必要もあります。
国交省は道路空間情報プラットフォームの活用例として、地下施設の損傷箇所を踏まえて空洞調査を前倒しすることや、空洞直下の地下施設を優先的に点検することを示しています。制度上の「連携」と、データ上の「連携」が同時に進められている点が、今回の政策の重要なポイントです。
竣工図提出の義務化が施工現場にもたらす意味
建設会社にとってより直接的な影響を持ち得るのが、地下占用物の竣工情報です。改正法では、道路の地下に埋設する占用物件について、工事完了時の届出と竣工図などの提出を義務付ける措置が盛り込まれました。 また占用許可申請書の記載事項にも、占用物件の維持管理に関する事項が追加されます。
これは施工管理の視点で見ると非常に重要な変化です。工事を完成させるだけではなく、「完成した施設がどこにあり、どのような状態で、将来誰が維持管理できるのか」を記録として残すことの重要性が一段と高まるからです。
今後、完成時の座標、深さ、形状、管径、材質、設置年、周辺施設との位置関係などを、後工程で使える情報としてどこまで正確に残せるかがより重要になる可能性があります。 国交省が想定する物件管理システムでは、位置だけでなく管種、外径、設置年などの属性情報を扱う考えが示されています。
GLC Jobとして特に注目したいのは、ここです。これまで「出来形管理」は発注者への成果提出という意味合いで捉えられがちでした。 しかし道路空間情報がつながれば、今日の現場で作成した完成データが、10年後、20年後の改修工事や災害復旧で直接使われる可能性があります。
施工管理者が残す情報が、将来の施工管理者の安全を守る。道路空間情報の一元化は、そんな時代への転換でもあるのです。
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道路空間情報の一元化で建設現場はどう変わるのか
道路空間情報プラットフォームが実務に定着すれば、影響は道路管理者やインフラ事業者だけにとどまりません。 調査、設計、施工、維持管理を担う建設会社にも、仕事の進め方を変える可能性があります。 特に地下工事や道路工事では、「現場に行かなければ分からない情報」を工事前に把握できる範囲が広がることが期待されます。
設計・施工の手戻り削減と安全性向上が期待される
国交省が示した道路空間情報プラットフォームの活用例には、「新たな地下施設の整備の効率化」が明記されています。
地下施設の位置や地質・地盤データを使い、既存地下施設を考慮した設計・施工を行うことに加え、3次元データを活用した手戻りの少ない設計やICT施工、近接する占用者による工事立会の削減などが想定されています。
道路掘削を伴う工事では、施工前に既設物の確認が欠かせません。現在も台帳確認、試掘、関係事業者との協議などが行われていますが、情報が複数の管理者に分散していれば、その確認には時間がかかります。 さらに台帳上の位置精度が十分でなければ、最終的には現地確認や試掘に頼らざるを得ません。道路空間情報プラットフォームによって各施設の情報がつながれば、少なくとも「どこに、どの管理者の、どのような施設が存在する可能性があるか」を事前に整理しやすくなります。
これは工程管理にも効いてきます。事前協議の効率化、施工計画の精度向上、設計変更リスクの低減、既設管損傷事故の防止などにつながれば、安全性と生産性の双方を改善できる可能性があります。 国交省も、工事や点検の事前調整による業務効率化やコスト削減を期待しています。
ただし、プラットフォームがあるから試掘が不要になる、という話ではありません。
国交省自身がデータ精度や鮮度を課題として挙げています。 画面上の情報と現地の実態を照合する能力は、むしろこれまで以上に重要になるでしょう。デジタルデータを信じ切るのではなく、「どの程度の精度を持つ情報なのか」を理解して現場判断へつなげる。 これからの施工管理者には、そうしたリテラシーも必要になります。
GIS・3次元データ・維持管理を扱える人材の価値が高まる
建設業界で働く人のキャリアという視点から見ると、道路空間情報の一元化は「土木とデジタルの境界がさらに薄くなる流れ」と捉えることができます。国交省の構想では、道路地下施設の平面図・断面図だけでなく、将来的な3D表示も検討されています。
また、地質・地盤、空洞、路面性状、点検結果といった異なる情報を位置情報と結びつけて扱います。
そのため今後は、従来の施工管理経験に加えて、
| 経験・スキル | 活かされやすい場面 |
|---|---|
| 道路・土木施工管理 | 道路改良、地下工事、維持修繕 |
| 上下水道・管路工事 | 占用物管理、老朽管更新 |
| 測量・座標管理 | 地下施設の位置情報整備 |
| GIS | 地図上での施設・リスク情報管理 |
| BIM/CIM・3次元モデル | 地下施設の可視化、設計・施工連携 |
| ICT施工 | 3次元データを利用した施工 |
| 点検・維持管理 | 異常箇所の評価、補修計画 |
| 発注者支援・行政経験 | 複数管理者間の調整、データ管理 |
といった領域を横断できる人材の重要性が増していくと考えられます。 これは国交省が道路DXの中で、道路管理の高度化・効率化やAI・ICTなどの新技術導入を進めている方向性とも一致します。
GLC Jobが特に注目しているのは、「施工経験を持つデジタル人材」です。
GISや3次元ソフトを操作できる人だけであれば、IT分野にもいます。 しかし「この管路がこの深さなら施工時に何が問題になるか」「この位置精度では掘削前に追加確認が必要だ」と判断するには、土木や施工の知識が必要です。逆に、施工経験だけでデータを扱えなければ、今後増えていくデジタル成果を十分に活用できない場面が増えるでしょう。
現場とデータの両方が分かる人材は、発注者、建設コンサルタント、ゼネコン、道路維持会社、上下水道事業者、インフラ企業など、複数の領域で活躍できる可能性があります。 国交省が道路DXを継続的に進めていることを考えても、この組み合わせは中長期的に注目しておきたいキャリア領域です。
道路空間情報プラットフォームに残る課題
道路空間情報プラットフォームは大きな可能性を持つ一方、「情報を一つの画面に表示できれば問題解決」というほど単純ではありません。 国交省自身も、位置精度、データの鮮度、保安、更新体制など複数の課題を認識しています。 むしろ本格運用後は、データを持続的に維持する仕組みづくりが重要になります。
最大の課題は「正しい情報を更新し続けられるか」
道路空間情報の一元化で最も重要なのは、情報量ではなく「信頼できる情報かどうか」です。地下施設の位置が数十センチ、場合によってはそれ以上ずれていれば、掘削工事では大きな問題になり得ます。 また、最新の工事が反映されていない情報であれば、画面が精密になっても実務上の価値は限定されます。
国交省は整備時の留意事項として、各データの位置情報の整合、測地系の確認や座標変換、データの精度・鮮度、管理・更新体制とルールづくりを明示しています。その意味で、2026年の法改正によって地下占用物の工事完了時に竣工図などの提出を求める方向へ進んだことは、プラットフォーム構想と密接につながっています。 完成時の情報を確実に残さなければ、将来のデータ基盤は正確にならないからです。
さらに難しいのが、既に何十年も前から存在している施設です。新設施設であれば、最初からデジタル情報を整備できます。 しかし古い地下埋設物については、図面の形式や精度が統一されていないもの、正確な位置把握が難しいものもあります。 国交省資料でも、既設物件について紙に限らずデータ提出を求めることや、正確な位置を把握する技術開発が検討されています。
今後は地下レーダー、MMS、3次元計測、各種センサーなど、「存在するが正確な位置が分からないインフラ」を把握する技術の重要性も高まっていくでしょう。
公開範囲とインフラ保安の両立も必要
もう一つ難しいのが、情報公開と保安のバランスです。道路空間情報プラットフォームでは一般の人、民間企業、研究機関などの利用も想定されています。 インフラの状態を可視化できれば、老朽化問題に対する社会的理解を高めたり、民間技術を活用した新しいサービスにつなげたりする可能性があります。
一方で、水道、ガス、電力、通信などの詳細な位置情報を無制限に公開することは、セキュリティ上慎重でなければなりません。
国交省資料でも、閲覧できる情報や機能は段階的に充実させるとしつつ、「保安上の観点を踏まえ閲覧可能な情報は検討が必要」と明記されています。
したがって将来的には、
「一般向けに公開できる情報」
「建設会社など一定の関係者が利用できる情報」
「道路管理者・占用者だけが扱える詳細情報」
といった形で、利用者に応じて情報の粒度や権限を変える設計になる可能性があります。 これは国交省資料から導ける方向性ですが、具体的な権限設計は今後の制度・システム設計によって決まる部分です。
建設会社側にも情報管理の責任が生まれます。便利なデータへアクセスできるほど、それを適切に扱うルール、端末管理、社外への持ち出し、協力会社との共有方法なども重要になるからです。
道路DXは「便利なシステムを導入すること」だけではありません。 データ品質、更新責任、利用権限、セキュリティまで含めた新しい業務体系を作る取り組みと考えるべきでしょう。
今後の展望――道路管理は「予防型」へ進む
国交省が進める道路空間情報の一元化が定着すれば、道路管理は大きな転換点を迎える可能性があります。 目指す先は、異常が発生した場所をその都度補修するだけではなく、複数の情報を組み合わせてリスクの高い場所を把握し、点検や修繕を先回りして行う管理です。
「壊れてから直す」から「危険な場所を先に直す」へ
道路空間情報プラットフォームの価値が最も発揮されるのは、データを重ねることで「単独の情報だけでは分からなかった関係」が見えるようになったときです。
たとえば国交省は、地下施設の位置・点検結果と路面下空洞調査結果を組み合わせ、空洞の発生要因を推定したり、空洞直下の地下施設の点検を前倒ししたりする利用を想定しています。 さらに路面性状、空洞調査、陥没実績などからリスク箇所を抽出することや、地下施設位置と地質・地盤情報から空洞が発生しやすい地域を分析する構想も示しています。
これは維持管理の考え方を大きく変える可能性があります。これまでは、点検周期が来た施設から順番に確認する、あるいは路面に変状が出た場所を調べるといった方法が中心でした。 そこに、施設年齢、点検結果、地盤条件、過去の陥没、空洞調査などを重ねれば、より危険度の高い場所から優先的に調査できる可能性があります。人的・財政的な資源が限られる中、すべてのインフラを同じ頻度で細かく点検することには限界があります。 だからこそ「どこから手を付けるべきか」をデータで判断する重要性が増します。
国交省が道路DXの目的として掲げる道路管理の高度化・効率化とも、この方向性は一致しています。
将来的にはAIによる異常傾向の分析や、各種センサー、画像、点群などを組み合わせた状態監視が進み、道路空間情報プラットフォームが「道路地下のデジタルな管理基盤」に成長していく可能性もあります。
ただし、その実現にはデータ量だけでなく、品質や標準化、継続的な更新が欠かせません。
災害復旧やインフラ更新でも重要な基盤になる
道路空間情報の一元化は、平常時の維持管理だけでなく、地震、豪雨などの災害時にも意味を持ちます。
国交省が示す全国統一型の占用関連システムでは、災害で施設が被災した際、道路管理者と占用事業者が登録情報を基に復旧計画を迅速に検討できることがメリットとして挙げられています。 道路空間情報プラットフォームについても、「災害時の施設復旧作業の効率化」が想定用途の一つです。
災害時には、道路を直すだけでは都市機能は復旧しません。道路下には水道、下水道、電力、ガス、通信など、生活や産業を支えるライフラインが集中しています。 各施設の位置関係を把握できれば、復旧工事同士の干渉を避けたり、優先順位を調整したりしやすくなります。
さらに、日本では今後、老朽化したインフラを更新する工事そのものが重要な市場になっていきます。 今回の制度改正でも、下水道について計画的な改築や維持管理体制の強化が盛り込まれており、道路地下空間を長期的に安全に維持する方向へ政策が動いています。建設業界で働く人にとって、ここは大きなポイントです。これからの土木分野では、「新しいインフラを造る仕事」と同時に、「既存インフラの状態を把握し、適切な時期に更新する仕事」がますます重要になります。
道路施工、上下水道、管路、舗装、測量、維持管理、建設コンサルタント、発注者支援、BIM/CIM、GIS――。
一見別々に見える職種が、「道路空間をどう管理するか」というテーマの下でつながり始めています。 今回の道路空間情報の一元化は、その変化を象徴する取り組みといえるでしょう。
まとめ
国交省が進める道路空間情報の一元化は、道路行政のデジタル化というだけでなく、日本のインフラ維持管理そのものを変える可能性を持つ取り組みです。
中核となる「道路空間情報プラットフォーム」では、道路施設だけでなく、上下水道、ガス、電力、通信などの占用物、路面下空洞、道路陥没実績、路面性状、地質・地盤などを同じ地図上で把握する構想が示されています。 国交省は2027年度内の構築・運用開始を目指しており、道路管理者、占用者、民間企業、研究機関などによる一体的な道路空間マネジメントにつなげる方針です。
その背景には、2025年1月に発生した八潮市の大規模道路陥没事故があります。 事故を契機として、地下施設の老朽化だけではなく、「道路管理者と占用者が十分な情報を共有できているのか」「工事後の正確な位置情報が引き継がれているのか」という、地下空間管理全体の課題が改めて浮き彫りになりました。
そして2026年には法制度も動きました。 「下水道法等の一部を改正する法律」が7月23日に公布され、道路管理者と占用者が点検・修繕などを連携して行う「占用物件等維持修繕協定」が制度化されるとともに、道路地下へ設置する占用物件について工事完了時の届出や竣工図などの提出を求める措置が盛り込まれました。この流れを建設業界側から見ると、重要なのは「行政のシステムが一つ増える」という話ではありません。これからは、施工時に作った情報が、その工事だけで完結しない時代になっていきます。
完成時に記録した座標や深さ、施設属性、出来形などが維持管理へ渡り、数十年後の改修工事へ渡り、災害時の復旧計画へ渡っていく。 逆に施工前には、過去の工事や点検で蓄積された情報を利用し、リスクを把握したうえで工事計画を立てる。 この「情報の循環」が道路建設の新しい標準になっていく可能性があります。施工管理者に求められる能力も変わっていくでしょう。工程・品質・安全・原価を管理する力が重要であることは変わりません。 しかしそこに、3次元データ、GIS、BIM/CIM、ICT施工、地下埋設物情報、維持管理データなどを読み取り、現場判断へ落とし込む力が加わっていきます。
特に価値が高まるのは、「現場が分かり、データも分かる人」です。施工経験があるからこそ、画面上の線一本から現場のリスクを想像できる。 管路施工を知っているからこそ、埋設深さや既設物との離隔が持つ意味を理解できる。 維持管理を経験しているからこそ、どの情報を完成時に残しておけば将来役に立つのか判断できる。
国交省が道路空間情報の一元化に踏み出した今、道路、上下水道、維持管理、測量、GIS、BIM/CIMなどの境界は、これまで以上に近づいていくとGLC Jobは見ています。 国交省が進めるxROADも、道路管理の高度化・効率化とデータ活用を継続して推進しています。
建設業界で今後のキャリアを考えるのであれば、「自分の担当工種だけを見る」のではなく、その工事が道路空間全体の中でどのようにつながっているのかを意識してみてください。
造る技術から、情報を残す技術へ。
壊れてから直す管理から、異常を予測して守る管理へ。
一つの施設を管理する発想から、道路空間全体を管理する発想へ。
国交省による道路空間情報の一元化は、こうした変化を本格化させる第一歩になりそうです。
引用元: 国土交通省「令和9年度道路関係予算概算要求概要」/ 「道路データプラットフォーム xROAD」/「xROAD紹介」/「道路地下空間利用のあり方等検討委員会」/「道路法施行規則の一部を改正する省令」の公布について/「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」/「下水道法等の一部を改正する法律案」を閣議決定/ 「令和8年度 通知・事務連絡」/ 日刊建設工業新聞
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